ツェルマットな日々 その10日目



オーバーロートホルン(Overrothorn 3415m)登山の一日




【8月29日(月)】

オーバーロートホルンは当初一番最初に足慣らしで登るはずの高度順応の山だったのだが、予想外の大雪のためにずっと登れずに後回しになってきた山だ。日本で3400mなんていうと、富士山の8合目か9合目みたいなかなりの高度に感じるが、こちらでは3100mまでロープウエイがあるからお気軽な山だ。だけど、積雪があると山頂付近はそれなりに危ないので雪のない時に登るようにとエージェントからは言われていた。


そんな訳で、やっと快晴のこの日に登ることにした。土曜日の夜から日曜日の朝にかけて降った雪もさすがに消えているだろう。この日は団体の日本人観光客が珍しくこのホテルにも泊まっていて、朝から食堂を占拠していた。混んでいたので彼らが終わってから食事をする。素晴らしい天気で、食堂の窓からはマッターホルンが綺麗に見えていた。


今日は早出するつもりだったが、全然大して早い時間でなくなってしまった。地下ケーブルでスネガまで、テレキャビンでブラウヘルト、そして大型ロープウエイでウンターロートホルン(3103m)まで一気に上がる。本当に素晴らしい好天で、全ての山々が綺麗に見えている。マッターホルンはもちろんのこと、既にすっかりおなじみになったモンテローザ他の山々やミシャルベル山群もバッチリだ。


今日は、一応マッターホルンに備えて服装、装備なども比較的近いアレンジで行くことにした。ブライトホルンとポリュックスでは冬ズボン+スパッツ+(雨具ズボン)で歩いたが、いかにも日本人=スパッツみたいな感じで、向こうの人はスパッツをつけない人がほとんど。履いているズボンも微妙に日本とは違うものが多い。自分も最近は山スキーばかりなので専らオーバーパンツを履いているので雪山ではスパッツをつけない。アイゼンのひっかけ防止にはオーバーパンツの方が良い気がするので、今日はオーバーパンツ+ワコールCWXのスポーツタイツの組み合わせを試みてみることにした。ちょっと暑いかなあ?


まぶしいような陽射しの中を歩き始める。最初はどこでも歩けるだだっ広い所を下る。ざくざくしていて、どこでも歩けてしまう。5分ぐらい降りただろうか、標識があって明瞭な登りとなる。だらだらと最初は登って行くが、上に薄手のフリースを着ていたのが暑くてたまらなくなって、しばらくして脱いで長袖Tャツ1枚になる。それからは快適にどんどん登る。高度順応しているせいか、比較的息は楽だった。しかし、足は重ため。ジグザグの登りになると、先行者を何組か追い抜く。一応マッターホルン登山の練習なので、休まずに黙々と登る。道はとても歩きやすかった。途中で気持ちのよさそうなコルみたいな所があり休んでいる人達も居たが、道が左方向に上がっていくので、そちらには行かずに直接山頂に向かう。左に左へと道が進むと、山頂かと思って登った場所のさらにもう少し左側がピークのようだ。岩の堆積したような感じの道になり、雪も微かに現れてきて、皆が休んでいる山頂に無事到着。一旦下がったコルの所から山頂までは約430mの標高差。さすがに、1時間は切れなかったが、少し越したぐらいで到着したのでまずまずだろう。足が重たく感じてた割には速く登れたので良しとしよう。


山頂は、ちょうど昼食の時間だったので、ここでゆっくりと昼食を摂る。もちろん、長く居た方が高度順応にもなるのでのんびり〜〜〜。それにしても完璧な展望で、特にドム(4545m)、テッシュホルン(4491m)、アルプフーベル(4206m)はぐっと近くに見えている。またモンテローザからリスカム、ポリュックス〜ブライトホルンのラインも素晴らしい景色だ。氷河もすごいし、言うことなし。マッターホルンは、今日は大分雪が溶けて黒くなってきたように見えるのは自分の気のせいだろうか?!♪ 山頂には変な形をした標識が立っていて、日本語や英語、ドイツ語など書かれている。「精神の世界へ」とあるがこの目玉みたいな印は一体何だったのだろう?。


途中で追い抜いたドイツの中年ご夫妻とも会話を交わしたりして、写真を撮っていただく。ドイツに住んでいると簡単にスイスに来れるようで、毎年来ているようで羨ましい。グループハイキングできている人もいれば、私のようにどっかの山に行くための高度順応らしい青年などもいた。カラスが時折きているが、カラスってどこでもいるんだなあ・・・・そういえば、ネパールのカラパタールの時も山頂にいたっけなあ・・・となんとなく思い出してしまった。


本当は昼寝したい所だが、あいにく雪の斜面が多くて大の字で寝るほど平らな所はなく、全て傾斜している独特の岩場の地形だった。これでは雪の日には本格的なアイゼンとロープによるアンザイレンがないと危険だということも実感した。1時間ほど休憩してから下山。こんなに簡単に景色がよいハイキングピークならば、次に来ることがあればまた来たい所だ。あっという間に鞍部まで下ったが、登り返しがたったの標高差で約120mという割には、ボテボテでやたらと足が超重い、重い、重い・・・・。こんな筈ではなかったんだけどと思いつつも、近くに居たパーティーを見るとやっぱりボテボテで、ほとんど休み休み。ザレていて、やや歩きにくいせいが関係しているのかもしれないけど、帰りの登り返しだけで15分近くかかってしまった。こんな重い足取りで困ったものだ。

ウンターロートホルン駅10:40発  オーバーロートホルン山頂 
11:44〜12:45
ウンターロートホルン駅13:35

★写真の下には、まだ文章が続きます。いよいよ、マッターホルンへの具体的な話が始まります・・・・








オーバーロートホルンへのロープウエイ
ロープウエイの下に大きな広告が載っているのが面白い
今日のマッターホルン
モンテ・ローザ山群
(左ノルエント4609m、右デュフールシュピッツェ4634m)
左奥がオーバーロートホルン方面で、
見えている所よりもう少し奥が山頂らしい
登りの途中。 山頂の一角には日本語も書かれた奇妙な目玉?がありました
山頂での記念撮影。最近愛用の日本手拭を首にかけてます オーバーロートホルン山頂とドムとテッシュホルン
山頂の先に行くほど傾斜もあって、右は絶壁、左も斜面が落ちているので要注意
  
山頂先端側から見た目玉のあたり
バックにブライトホルンとポリュックスも綺麗
見事なフィンデルン氷河




ホテルに14時半頃には戻って、軽くシャワーを浴びてからお土産物の買い物に行く。まだ、何もお土産は買っていなかったので、もし山にアタックしたら翌日などは疲れ果ててしまって何も買えなくなったら困るので、今のうちに最低限買っておこうと思った。コープであれこれ見ていたら、携帯が鳴った。茂木さんからだ。もたもたしていたら、取りそこねた。しばらくすると再び携帯が鳴った。ちょっとドキドキして電話に出た。


「いよいよ、マッターホルンの第一陣が今日小屋入りで、明日火曜日にアタックが出ます。どうしますか?」と聞かれて、 <う〜ん・・・・> 正直な話、足が重くなってきているのは自分の体調変化で、いつ生理が始まってもおかしくない状況だからだ。自分は、足がそれの前にはむくんでくることが多く、見た目にもわかるぐらいになることが多い。体重も重くなるし、全くいい事はひとつも無い!!! 7日目のレポでも書いたように、生理になってしまうと自分は極めて頻繁にトイレに行く必要があるので、恐らく最低でも10時間(予想)はトイレに行けないマッターホルンは全く望めない状況なのだ(グスン、グスン、グスン・・・・・) このときほど自分を呪ったことはない。茂木さんは女性同士なので、とてもありがたく、率直なところを話してみた。ちなみに、アクティブマウンテンご推奨のヘルムート(ポリュックス登山の時のガイドさん)は、既に水、木はガイドの仕事が入っている(恐らくマッターホルンだろう)ので無理だという。よって、行くのならば他のガイドを探す必要があると言われた。


相当に電話口で迷っている私に、茂木さんは「せっかくだから、アタックしてみたら?」と自分の背中をぽんと押してくれた。それに、「もし小屋で体調が悪くなって降りるようなことがあれば、200CHFぐらいでガイド拘束料を払えばアタックしなくても済む。」という話もしてくれた。自分はかなり心配性だとは思っているけど、 <そうか、とりあえず小屋まで行ってみて、もし駄目ならば引き返せばいいじゃないか>と考えると、なんか前進する気分になってきた。 200CHFならば我慢できるお金だ。そう思うと大分気が楽になった。(なんせ、マッターホルンのガイド代はたぶん10万円位じゃないかな?) それで、いつアタックするかだが、茂木さんの電話の口調ではなんとなく雪がなるべく溶けた方が登り易いだろうから水曜日小屋入りで、木曜日アタックのニュアンスだった。でもそれだと帰国前日のアタックになるし、逆に体調から考えてみると自分は早いほどよいので「明日小屋入りで、水曜日アタックにして欲しい」とお願いして、まずはガイドを探してもらうことになった。 


なんだか急な展開に気もそぞろで買い物を済ませてアクティブマウンテンの事務所に行った。ちょうど都合の良いことに、事務所は茂木さんとキャサリーンと女性だけだった。田村代表はモンブランに高齢な日本人3人組のアシスタントガイド兼通訳として登るために不在だった
(チョモランマ等の名だたる山を登った方でも、ガイド資格の種類でメインガイドでは登れないのだという。現地ガイドがメインガイドだという。) 


ちょうど私が顔を出したら、茂木さんが「たった今、やっとガイドが確保できました。なかなかガイドに空きがなくて。リュフェルホルンの時のジョージがガイドですよ。ヘルンリ小屋もこの分ではかなり混んでいるでしょうね」という。なんかとってもラッキーで、急に気持ちが楽になった♪♪♪ 彼ならば英語もうまく?通じるし、なんとなく相性が合うのだった。地元のガイドでないせいか、ちょっとシャイな部分もあるようだし、何よりも自分の実力をある程度わかってくれているので、知らないガイドと当日組まされるよりもずっと気楽だ。ジョージはまだ5回しかマッターホルンのガイドをしていないのが少し気になったが、まあ国際ガイドレベルの人ならばマッターホルンの一般ルート位はさして問題ではないだろう。 


また、もし明日から体調が悪くなったら駄目なので、最終の決定連絡を茂木さんとの間で「明日午前11時半に連絡を取り合って、それで大丈夫の時は出発する。駄目な時はその時点で断念する。それ以降に明朝アタックするまでに調子が悪くなった場合は、ガイド拘束料の200CHFを支払って下山する。」という取り決めとした。念のために、英語で生理は何というのかを教えてもらって紙にメモしてもらった。茂木さんを通してジョージとは交渉したので、どこまで話したのか細かいニュアンスはわからないが、欧米人は日本人よりも生理に関してはずっとオープンな感じで、ガイドはしょっちゅうその手のことには慣れているようなので、あまり心配しなくていいよって感じだった。あれこれ言ったから、MINMINはたぶんあまり本調子でないことだけはたぶん伝わったのではないかと思う。


ガイドがジョージと決まったので、なんとなく登れる気になってきた。気分が少し良くなったので、奮発してお土産をバーンと買い込んでホテルに戻った。ロビーの隅にあるパソコンでインターネットを見たら、
私のサイトが10万ヒットを達成していた。初のキリ番実施だったのに誰も気づかなかったみたい。(笑) でも、大変光栄なことで、感謝の気持ちで一杯です。今こうしているのも、応援して頂いているみんなのお陰もあるし、何と言ってもS夫妻が私のサイトを見て、声をかけてくれたことから全ては始まったのでした。また色んな情報もネットの関係で入手したので、感慨深いものがある。明日からマッターホルンに向かおうという日に10万ヒットとは因果なものである。


部屋に戻ってあれこれ準備を済ませて、いつものように自炊で少し遅めの夕食をとった。足がやはりだるいので、ふくらはぎや足裏マッサージを念入りにした。今日はCWXタイツを履いたおかげで、それでもマシなのかもしれないけど、やっぱり足はむくみ気味でため息です。今日はそこそこのスピードで登れたけど、本番は岩登りだからきついだろうなあ。本当は、ベストの体調でマッターホルンを望みたかったのに・・・・・。お天気がやっと回復してきていい感じなのに、とっても残念。やっぱり、2ヶ月前に旅行を予約したので体調サイクルの見極めができなかったのが運のツキかもしれない。だけどあと1週間早いお盆の時期に来たら登れたかというと、マッターホルンがオープンしていた日は1日か2日だけなので、それも実力パーティーしか登らせなかったことを考えると、自分が行けたかというと大変疑問なものです。


なんだか山に登る心配よりも遥かに自分の体調のことの方が心配という、なんとも情けない滑稽な話ではありますが、これも自分の宿命かな? 
やっと持病を克服してここまで来たのに、なんとか神様にも応援してもらいたいものです。(涙涙涙・・・・・・・・)