ツェルマットな日々 その8日目
リッフェルホルン(Riffelhorn 2928m)岩トレの一日
【8月27日(土】 前夜のお祭り騒ぎの騒音のお陰で若干睡眠不足・・・・ ゴルナーグラード登山鉄道駅に7:50集合予定に7:40に到着。今日は天気は曇り空だ。朝早いので駅は誰もまだ人がいない感じだったが、ベンチに一人だけ背の高いガイドらしき人物が座っていた。もしやと思って近づき「ジョージですか?」と聞くとそうだという。簡単にあいさつだけして、切符を買いに行く。そうこうしていると、エージェントの田村さんがやってきた。そこで、改めて紹介。田村さんがドイツ語でリュフェホルンの岩のどこそこで練習をさせて欲しい、またマッターホルンで使うザイルで降ろす体験をさせて欲しいというようなことを頼んでいた。ついでに、私から「左上腕を少し痛めているのであまり難しいことをさせないで」と言ってもらうようにした。田村さんの知人の別のガイドがまた現れたので、3人でドイツ語で話をしていたが、田村さんはすごく堪能なドイツ語で、あとでジョージが「田村さんのドイツ語の発音はほぼネイティブですね」と誉めると当時に驚いていた。 8時の列車でローテンボーデンへ行く。列車はガラガラで、ガイドとツーショットで40分も向き合って列車に乗るのかと思うと、実は結構憂鬱だった。しかし、その懸念も最初だけだった。ジョージは背は185センチで、とても痩せているので(後日確認すると体重は70キロだという)実際はもっと高く見えた。目がパッチリしていて、童顔な感じでちょっとかわいい感じの表情の人だった。恐そうな感じの人だと自分は緊張して引いてしまうのだが(これは日本人の男の人でも当てはまるのだが ^^; )、若い感じだけど、20代前半ほどのノリでもなくて、もう少し上の年齢のようで、やや落ち着いている感じであって感じがよかった。 改めて列車の中でお互いに自己紹介。自分の本名とニックネームがMINMINということや、山のホームページをやっていることなどを話す。自分の本名の名前は彼は発音しにくいようだった。ジョージはオーストリア人だが、冬の間はカナダでヘリスキーガイドをやっており、12月ぐらいから4月ぐらいまでずっと英語圏内で仕事をしているので、私の超下手な英語にもとても辛抱強く付き合ってくれた。スキーの話は私も大好きなので、自分がカナダのバンフには滑りに行った事があるのよ・・・と言うと、レイクルイーズとサンシャインビレッジでしょ?とか、まだカービングの板やファットスキーがない時代だったので、深いパウダースノーを楽しめなくて残念だった・・・なんていう話をしたら、色々と話が盛り上がった。彼はアルペンスキーオンリーという。是非楽しいから、ヘリスキーはやってみるといいよと言ってくれた。ジョージの知り合いで札幌に住んで写真の撮影を仕事にしている人がいるという話も聞いた。長野オリンピックのアルペンスキー会場のコースは全部滑ったことあるよとか、自分はツアースキーをするのも好きという話などもした。そんなスキーをめぐる話をしてたら、あっという間に時間が経って楽しかった。 山に関しても私は列車から見える山の名前をほぼ全部わかるようになっていたので、随分遠くにある山を「あれはビーチホルンかしら?」と質問したので、彼の方が慌てたようで?地図を取り出して確認していた。なんせ、彼はツェルマットでガイドをするのは2シーズン目という。7月と8月の2ヶ月間滞在しているという。マッターホルンに関しては、去年5回ガイドをしたが、今年はまだ1回も登れていないという(天気やチャンスに恵まれなくてとちょっと恥ずかしそう?に話していた) 近くに見える山は全て登ったというけど、いわゆる地元のガイドではないので、あまり詳細なことを突っ込むと?となる。自分は友人夫妻達4名と一緒に来ていて、その一人がヴァイスホルンを目指しているけど、天気が悪くて諦めたとか、既にその人はツィナールロートホルンとオーバーガーベルホルンを登ったとか、そいういう話をするものだから、なんか随分気合の入った?日本人グループと思ったかもしれない。(苦笑) 注:ちなみに、ヴァイスホルン、ツィナールロートホルン、オーバーガーベルホルンなどは、いずれもマッターホルンよりもレベル的には同等ないしは高難度の山でかつ渋い山なので、本当に山が好きな人しか登らない通向けの山と言えばよいだろうか。まあ、自分が登る訳でもなくて、よっちゃんの話なんだけどけどね(笑) 日本人はやたらとモンブランとマッターホルンばかりを登りに来る・・・・というイメージが強いので、そうでない日本人だっているんだぞ、MINMINはちゃんとはスイスの他の山のことも調べてきている、山がとっても好きだというがわかってくれたと思う。 また、富士山には登ったことがあるかと聞かれたので、もちろん何度かトレーニングで登っている話をする。富士山の高度を聞くので3776mと答えると、オーストリアの最高峰も似たような標高なので、自分の国もそんなに高い山がないんで残念なんです・・・・みたいな話をしていた。またヒマラヤに行った事があるかと聞かれたので、ネパールにトレッキングに行った話をした。彼はまだ行ったことがなくて、とても興味深かそうに聞いていた。エベレストベースキャンプのそばの5500mぐらいの所から自分の目でエベレストを見たかったのよ・・・そんな話をしたのだった。 正直なところ、英語でこんなに話をしたのは生まれて初めてだ。ほとんど英単語の羅列と中学英語レベルのしゃべり方だけど、自分の好きなことを英語で相手に辛うじてだけど伝えられて、コミュニケーションをとることがとっても感動的に嬉しかった♪ 列車の中でかなりしゃべっていたので、ほとんど英会話教室の気分だった。彼はカナダで仕事をしているせいか素直な英語で大変わかりやすくて助かった。 そんな訳で、すっかりローテンボーデンの駅に着いたときには結構リラックスできた。本当は、久しぶりに登る岩なので緊張してたんだけどね。。。。。数日前にハイキングで来た逆さマッターホルンで有名なリュフェルゼーの湖を見下ろす近くを通過。本日は曇り空で気温が低く、思わず寒いので雨具を着た。マッターホルンもどんよりとしている。湖のそばにある岩山を登るのだが、登攀ルートは湖に面していない方にある。氷河が向こうに広がっているが、それを見下ろしながらハーネス、ヘルメットをつけて、アンザイレンをして歩き出す。 予め示された岩のルート図では、一番奥のルートだ(下のルート図Aのルート)。アプローチは足場もそれなりに不安定なので気をつけて歩く。途中で、先に行くように指示されたので歩いて行くと、確保を必要とする場面だった。(やっぱ、アプローチからバリエーション?) 2回ほどそんな場所があったと思う。それなりに左は氷河まで岩が落ちていくようなとても高度感のあるアプローチ道だった。途中で私に「見ろ、見ろ」と声を潜めて彼が指差すので目をやるとシュタインボック(野生鹿)だった。初めて自分は見たが、なかなか角が立派。最初は2匹ぐらいだったのが、だんだん増えて5匹にもなったので、「彼らはファミリーですね!」な〜んて私も話しながら見入ってしまった。 そんなこんなで、40分ほどアプローチの道を歩いていると、すっかり体も温まって暑くなってきた。やっと到着って気分。ここで、ジョージはクライミングシューズに履き替える。私は登山靴で岩を登るのは本当に久しぶりなので、ちょっと心配。取り付き点にはプレートにルートの表示が書かれていたし、しっかりしたチェーンもあった。いよいよ、ジョージが登攀開始。こちらは、しばしセルフを取って見学。 |
ローテンボーテン駅付近にてブライトホルン(正面)、左の小さな山がポリュックス | リュフェルホルンの岩山。 登るのは見えていない山の裏側 |
アプローチがなかなかスリリング。ここは後ろから確保されてトラバース 振り返ってジョージが来るのを待つ |
シュタインボックの群れ |
左のルートを登った | 取り付き点にはルート表示のプレートがある。 |
1ピッチ目は、グレード4−。最初はやや左から入ればラクに登れたが、なんせ外の岩の感触は約2年ぶりだし、登山靴での登攀なんて、うーん、3年ぶりかもしれない(笑)。やっぱり、フラットソールとは違うなあと思いながらも、慎重にビブラムソールの感触をつかみながら登る。久しぶりの岩登りなので体が動くかマジに心配だったが、なるべく腕を使わないで足で登るようにと思いつつもそれなりに腕を使ってしまった。(^^;)やっぱり登山靴の登りは厳しいなあ。階段状みたいな所もあったが、行き詰まりそうになる少し手前ぐらいの感じの所もあり無我夢中で登った。後半はジョージの登った所は見えなかったので適当に自分で登るのだが、細かい点は覚えていない。ヌンチャクの回収なんていうのも超久しぶりなので、どうやるんだっけ??・・・・なんて思い出しながらやっているうちにテラスのビレイ点に到着。ここは広くて、やれやれ休憩。 2ピッチ目はグレード3なので、ほとんど歩くような感じでスタスタと登り、快適な感じだった。ヌンチャクの回収も「そうだ、こうやるとスムーズでよかったなあ・・・」なんて思い出してきた。(苦笑) 3ピッチ目は4−なので、ルート図に別にジョージが書き込んできた少し楽なイージールートが左側にあるので、「イージールートを選択しますか?」と聞かれたので「最初は正規のルートにトライして、駄目だったらイージールートに行く」と答えた。結構苦戦はそれなりにしたけど、なんとか正規ルートを登れてほっとした。 4ピッチ目はグレード3+。印象に残っていないので、たぶん快適に登れたのだと思う。 5ピッチ目はグレードは4。途中で、垂壁になっている部分があって、どうしても足が上がらない。フラットソールならば、左足をここに持ってきて、右足をここに・・・・というのがわかるし、ジョージもそうやって登っていたの見ていたのだが。登山靴では、どうしても右足がそこまであがらないし、フリクションも効かないので大苦戦。「体がとっても硬くて足が上がらないので待ってて・・・・ とっても下手でごめんなさい〜〜」と英語で伝えてしばらく待ってもらう。ジョージは「ノーブロブレム」てな感じのやりとり。しようがないので、右の所に回りこんでカンテ状の所を登ろうかと思って一旦下がってから右に登ろうとしたけど、右は高度感があり、ランナウトするようなので、こりゃあだめだ・・・・。 再度戻って、もう一度登ろうとするけど駄目。結局ここからはもっと下から右に入っていくはずのイージールートにも行けないので、ギブアップ。ジョージがすぐ岩の上で確保しているので、本当に真上から、<よいしょ、よいしょ・・・・>って綱引き状態で3m位引き上げてもらってクリア。いや〜〜〜、参りました・・・・。ジョージがにこにこしているのでほっとした。その後は、後半右寄りのイージールートを使ったのかなあ? やや左腕が痛くて腕をさすっていたら、ジョージが気づいて大丈夫と聞いてきた。やはり、あまり腕でぐいと登らない方がよさそうだ。 6ピッチ目は、グレード4−。ジョージは正規のリッジ状の所を登ったが、下から見ていても小さなスタンスに立つ必要があるので、登山靴ではとても無理だと思った。彼が確保用にヌンチャクをかけた箇所があるのだが、その回収だけを行って右からイージールートを登ることにした。そのヌンチャクが垂壁の途中にあって、取り外すのが背がやっと届く場所なので、かなり恐かった。やっと回収して、ほっとして一旦少し降りてから、右寄りのチムニー的な場所を登った。岩は細身?の自分ならば体が半分入るような感じだが、体のがっちりした人ならば別の登り方でもするのかなあ?そこを登りきると、最後はスラブでごく緩やかな傾斜なんだけど、登山靴では少し滑りそうで恐る恐る。こういうスタンスではやっぱりフラットソールの方が安心。そこをもう少し上がると、頂上だった。ガイド登山だと、最初にお客さんを先に登頂させる形を必ず取るが、なんかとってもくすぐったい気分だった。 2時間程度で登って、久しぶりの岩登りを堪能。風がややあって寒いので岩影で軽食。ちょうど、もう少し右のルートを登ってきた女性とガイドのパーティーと一緒になる。ガイドは地元のガイドかどうかまではわからなかったが、やや年配で40後半から50代ぐらいで陽気な感じのガイドだった。彼らはドイツ語でしゃべっていた。寒かったのでテルモスのお茶がありがたかった。彼らは全然寒そうにしていないんだけど・・・・。女性はフラットシューズを履いていたし、途中のルートも難しそうな所を登っていたみたい。この後で、私らが登ったルートの隣あたりで懸垂の練習をするみたいだった。ジョージはさりげなく気を配ってくれて、チョコレートをくれたりした。やっぱ、スイスのチョコはどれも美味しいわ。。。。 ゆっくり休んでから、下山開始。下山は自分が先に歩く形だ。最初は山の中央の平坦な部分を歩いていて、最初の懸垂場所に到着。きちんとしたボルトが打たれていて、そこから、ガイドが上から確保する形のロアーダウンを行った。こっちのガイド登山では懸垂って呼んでいるみたいで、彼はアブセーリングと言っていた。久しぶりに懸垂もどきをしたが、何も自分はしなくてよいので楽だ。私が降りてからガイドは近くのルートを完全なフリーで降りてくるので、やっぱ凄いな・・・・。しばらく行くと、やや左よりにルートを取りすぎたせいか、こんなに湖が見える方に来てしまっていいのかな?と思いながらもどんどん降りていくと、あれあれ?ハーケンの古いのが打ち込まれていたり、身動きできない感じの岩場のようなガレ場になってきた・・・・。ジョージは地元のガイドでないし、このあたりにあまり来ていないようなので迷子になっちゃった(笑) 私から見ても、おかしいなって思っていたので、やっぱり引き返そうって彼が言うので、5分位だろうか岩場を登り返すことになった。 再びリュフェルホルンの山頂付近の平坦部分に近いところまで登っていくと、やはりもっと真っ直ぐ降りる必要があったことが判明。2度目の懸垂場所に到着。ここの方が距離も長くて、やや空中懸垂だった。振られないように気をつけて降りるが、なかなか楽しい。ここを過ぎると、完全な登山道ぽくなって、どんどん下っていく。曇り空ではあるものの、雨に降られずにまずまずの天気だった。取り付き点でザイルを外して装備を外す。 ローテンボーデンの駅に戻ると、ちょうど登山電車がやってきたので一緒に乗り込む。下りは、また会話を楽しみながら、今日の岩の話や、マッターホルンの方がこの岩よりも簡単だとか・・・・そんな話をして楽しんだ。駅で別れる頃に、「ところで、あなたのマッターホルンのガイドはもう決まってますか?」と聞かれたので、自分は何と答えてよいのかわからなくて返答に困った。エージェントが決めることだから・・・・・。良い英語が思い浮かばなかったので、「たぶん決まっているような感じもするけど、・・・・エージェントに聞かないとわからない」と答えたつもりなのだが伝わったかどうかは大変疑問。彼は??ってな表情だったので。「英語がうまく言えなくてごめんなさい。でも、今日はとても楽しかったよ」と言って駅で別れた。話の途中でも私のツェルマットの滞在が1週間?2週間?と何回か確認していたので、そうか、ガイドさんもお客さんを探さないとならないのかあ・・・・。ちょっと彼の残念そうな表情が寂しそうで印象的だった。 その足でコープに行って買い物をして、シャワーを浴びてから遅めの昼食をとってお昼寝。4時過ぎの茂木さんからの電話で目が覚めた。今後の予定をどうしますか?ということなのだけど、天気は明日もイマイチそうだし、サースフェー方面のヴァイスミースやアラリンホルンに月曜日あたりに登りに行くと、一番早くて火曜日にマッターホルンがオープンするとしたら、あちこち行くよりも体力温存して、近場のハイキングでもした方がいいかな?と思うようになってきた。そうすると、マッターホルンが駄目ならばこれ以上は4000m峰に登れない可能性が高いかもしれないけど、これもお天気次第だし、初めてのスイスだし、次にまた来ればいいさ・・・・・と思うようになった。 マッターホルンは、岩の難易度は2級がメインで、3級とか4級は固定ロープがあるようなので、今日の岩トレで3級程度の所は問題なく登れたので、まあなんとかなるかなあ・・・・。少し自信がついたのと同時に、心配していた左腕の痛みがほとんどなかったので安心した。久しぶりの登山靴での岩登りは楽しかったし、何よりも岩登りをした以上に英語の勉強になったというのが正直な感想だ(爆笑) 夜からはまた雨が降り始めた。あ〜あ、またこれで積雪量が増えてしまう・・・・。またまた頭が痛い・・・・ しかし、後で振り返ってみるとこの日の体験なしにはマッターホルンの登頂は100%ありえなかったと思う運命を分けた一日だった。実はちょっと半分ヤケ気味で決めたリュフェルホルンの岩トレだったのだが、何が幸いするかわからない。
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1ピッチ目のジョージ | たぶんここは6ピッチ目を見上げている所だと思う。 |
右 ツィナールロートホルン(4221m)と 左 オーバーガーベルホルン(4063m) |
ヴァイスホルン(4505m) |
リュフェルホルン山頂。 マッターホルンが見え隠れしていた。 |