ツェルマットな日々 その12日目(前編)
マッターホルン登頂(Matterhorn 4478M )から
ツェルマットまでの長〜〜〜い一日
【8月31日(水)】 ★★ ソルベイヒュッテまで ★★ どの程度眠れたか?だが、窓の外の様子から今日も天気がよさそうだ。まだ外は真っ暗。トイレは2つしかないので(一つ下の3Fと2Fにある)、皆がスタートダッシュする前の3:40頃からトイレに行くことにした。ところが、2段ベットの脇に吊るしていたペツル(ティカ)のヘッデンを取ろうとしたら、30センチぐらいの高さから木の床に落としてしまい、なんとヘッデンが分解!乾電池があたりに散らばってしまって、真っ暗な部屋の中なのでもう大変!なんとか手をあたりに這わせるようにして、かなり探して3個全部の乾電池をキープ。ここで、ヘッデンが壊れたらリタイアに繋がるかと思うと超ドキドキもので、大汗でした!! 窓際のベッドなので外からの微かな光をもとに、なんとかヘッデンに乾電池を戻す。やっとこれでトイレに出かけられる。 ヘッデン付けてトイレに行き、無事に本日出発できる体調であることを確認し、心底ほっ〜〜〜とした。これで、本当に出発できるんだ♪ (今さらと思う方もいるでしょうけど、最終決断は本当にこの時なのでした。苦笑) それにしても、ここのトイレは水洗トイレでトイペも一杯積んであって、綺麗でいいわぁ。(モンブランの時の壮絶なトイレから比べるとまるで天国です) 部屋に戻ってきてしばらくすると、同室の4人も既にもぞもぞと動き出していてフライングスタートです。暗がりで靴を履いたり、ハーネスをつけているうちに部屋の明かりが付きました。ヘッデンをメットにセットして、それから日本からの持参の食料を食べます。食欲もあって体調はまずまず。4時5分過ぎに全ての準備を済ませて食堂に降りて行くと、かなりの人達がもう食事を済ませた感じです。Cさんがちょうど食事を終え、既に出発モードに入ろうとしてすれ違い、挨拶しました。ジョージを見つけるとまだ食事をしてました。自分は既にジャパニーズフードを食べているのでOKよと話しました。「眠れましたか?」と聞かれたので、「あんまり眠れなかったけどいつもそうなんで、ノープロブレムよ」と答えました。彼がパンを食べている間に、自分は少し減ってしまった分のお湯をテルモスに足してほうじ茶をセット。さらに食卓にあった紅茶セットからハーブティーを選んで飲みながら待機です。ジョージはやっと食事を済ませてこれからハーネスを付けて準備に入るみたい。 それにしても、あっという間に4時15分が迫ってます。その時間になる直前には、小屋の出入口の前に一斉に人が集結してます。見ていると凄い迫力です!!! 円陣を組んで・・・・みたいなノリで、恐らく地元のガイド同士で打ち合わせしていたかのような感じで、4時15分が来ると同時に一斉に全員出発していきました。まさにこれから陸上競技のレースが始まったという感じでした。 ・・・・ところでジョージはというと、平然とやや皆から遅れて私とロープを結びました。小屋を出たのはガイド組では恐らくラストに近い感じでした。皆から遅れること2分、4時17分のことでした。出発すると外は当然真っ暗ですが、ヘッデンで歩くのが困るような感じではありません。前日下見をした取り付きまで小屋の裏を少し上がるのですが、なんと情けないことに足があまりうまく上がりません・・・・・。足が重たいのです。それにすぐにドキドキしてしまうのです。朝一ということもありますが、これは先が思いやられます(大苦笑)ジョージが最初に皆と同じようにダッシュをしなかったのは、とっても正解です。どう見ても自分はそんなに速くないので、取り付きまで他の俊足ランナー達ともまともに勝負しても無駄だと思ったのでしょう。遅いので引っ張られるかな?と思ったら、そうではなくて、そこそこのペースで歩いてくれるので助かりました。それにしても、暑いです。僅かに歩いただけなのに汗が吹き出てきました。風もなく静かな暖かい夜でした。 どうせ取り付きでは順番待ちだろう、少し休めるだろうと思っていたら予想通りでした。と言っても、わずかに2パーティー位しか待っていなかったのであっという間に自分の番です。ジョージが途中まで登ると、そこで少し待ってくれて確保されて登ります。やはり前日の下見どおり、ここはかなり磨かれてつるつるでしたが、確保されている気安さもあるので一気に登りました。(日本の一般縦走路にある固定ロープよりもやや難易度は高いようでしたが、ガイドから確保されているので見た目ほどの難しさはないです。) ここはすんなりは登れたのですが、右中指の先端から一気に血が吹き出ました!岩肌で切ったのでした。薄手の手袋をフリースのポケットに入れていたのですが、すっかり着けるのを忘れてました。あまりに血がばーっと出たので、手袋をするのも憚れて乾くまで待とうと思いました。(それで、そのままするのを忘れちゃいました。ガイドが手袋をしていないので、ちょっと油断してました。かなり暑かったせいもあるとは思います。)私はピンクのザイルの固定ロープの所を登ったのですが、待ちきれないパーティーはもう1本右にある黄色いロープのルートから登っている人もいました。 ここの最初の取り付きを終えると、左の方向に登って行くのですが、さっきのような岩登り的な急登はなく、よく言われているように<槍ヶ岳の槍の穂先のルートみたい>という2級レベルの感じの道が続きます。ところが、登っていて気づいたのですが、いわゆる段差のある急登というのは自分は苦手なんですね(今頃気づくな!!苦笑 )明らかな脚力不足です。今シーズンの付け焼刃トレーニングでは自分のペースで登れる雪渓や樹林帯を歩いていたのであまり認識していなかったのですが、ガンガン高度を稼ぐ必要があるこの手の急登までは筋力が足りません。それにもちろん高度は3200mからのスタートなので心肺機能がまるで追いつかなくて、ハァーハァーゼーゼーという感じです。段差があると言っても、岩の細かいステップはあるので、ジョージからも「ショートステップ」と言われて、なるべく段差の少ない所を選んで小さな歩幅で歩くようにするのですが、<外人さんのショートステップは自分のロングステップに近いよね・・・・>と思いながら歩いてました。 左の東壁側に入って最初のあたりで、まだ小屋から20分歩いたかどうか位の場所で上を見ると驚くほど高い位置にヘッデンのライトの行列が進んでいるではないですか(愕然・・・・・・) 半端じゃない高さでした!まるで夏の富士山のご来光登山のようにライトの列が山の上に延びています。だんだんと歩いているうちに、俊足な番犬を従えたガイド達とジョージだけのんびり亀の首にロープを付けて登っている図・・・・・という漫画チックな構図が頭に浮かんできて、自分自身で苦笑いしてました。そんな想いに捉われていると、容赦なく後ろからパーティーが追いついてきて、2パーティーが抜いて行きました。抜いてもらって気が楽になりました。 抜いたパーティーからもあっという間に遠く引き離されて、暗い岩ばかりの山道を本当にダントツのビリで一人旅ならぬガイドと一緒の二人旅です。(実際は、ガイドレス等のグループがかなり後にもう何組かはいたようです)日本でも割りとマイペースな私ですが、まさかマッターホルンでもマイペースで登るとは思ってもいませんでした。ほとんど暗いのでよくわからない中を歩いているのですが、とにかく暑いのと呼吸が辛かったです。中間に着ていた半袖Tシャツを一枚脱ぎたいと思いつつも、そうはいかないので我慢です。 1時間ぐらい登った所で、初めて東壁側のルートからリッジ(稜線)に上がりました。そうすると急激に冷たい風が吹いていて心地よくて、ふぅ〜〜と汗も引いて少し気分も改まって調子が少し出てきました。たぶん、そこからもう少し登った小屋から1時間半か1時間15分程度歩いた所で1本休憩。ジョージに「遅くてごめんなさい・・・」と言ったら、 「I’m easy so you are late」 (貴女がゆっくりだから、僕はとっても楽だよ)とニコニコして言うので可笑しかったです。 水分補給をしてほどなく出発。暗いし、ほとんどルートの特徴は描写できないです。とにかくずっと岩場の登り、稜線の少し左の位置ぐらいの所を登っているようですが暗いのでよくわかりません。雪もそれなりに出てますが、凍結している訳ではないのでアイゼンは使うほどではありませんでした。しかし、後になって考えると暗い道で雪もあっていつもよりも慎重に登っていたのだと思います。また、ほとんどコンテで登っているのですが、ガイドはなるべくロープを岩肌に沿わすような感じで岩に少し引っかかるような感じでロープを流していて、スリップした場合などに備えているようでした。こういう確保方法があるんだと感心して見てました。自分はそのロープを近くに寄ると岩から外れるようにして歩いていきます。もちろん全部のシーンでやるわけではなりませんが、やや斜度があって危険そうとか雪があるような所では積極的にそんな感じでやってました。 ほとんど前しか見て歩いていないのですが、ふと振り向くと見事なツェルマットの夜景と段々と白んできた周りの山の荘厳な様子を一瞬見ることができました。思わずビューティフルと口づさんでしまいました。「心の中でシャッターを押す」という一瞬でした。もう少しでヘッデンを使わなくてもいいなと思う頃、ドジな私はヘルメットごと岩にごっつんとぶつかりました。そしたら、またヘッデンが飛び散って分解・・・・・。ジョージに止まる様に言って本日2度目の乾電池探しです。3つのうち2つは地面に落ちていたのですが、もう1個は見つかりません。やっと岩の隙間にあるのを見つけると、二人で取ろうとするのですが段々と岩の中に落ち込んでしまって結局手の届かない所に入ってしまいました。歩くのにはさして支障がない程度の明かるさだったので問題ないとジョージに伝えました。それで分解されたヘッデンをメットから外してザックに収納してもらいました。今回は頭上にあった岩の出っ張りに気づかなかった自分のミスで、勢いも結構あったのでやむないですが、朝のトラブルの事と合わせて考えると軽量ヘッデンが予想以上にチャチだったということが実感できました。 そんなことがあって、もたもたと時間もロス。時計を見ると6時近くだったような気がします。「標高であと300m!」とジョージに言われました。自分の高度計でも哀しいほど低い高度を示してました。見上げると驚くほど高い位置にソルベイヒュッテ(4003m)が見えます。あの時の圧倒的なマッターホルンの大きさ、高さは忘れることができないです。ほとんど威圧的に高い位置に小屋がありました。相当にぐったりの気分で、<もう少しで出発して2時間なので、とても2時間半以内には登れないだろう・・・・・自分のマッターホルンはソルベイヒュッテまでで終わりだな・・・>と心の中でつぶやきました。それにしても、先頭集団らしきは既に小屋の近くまで進んでいるようでした。 かなりボテボテのペースで書くのも忍びないですが、息があがってはいるものの、辛うじて一応立ち止まることはなく登っていきました。ヘッデンを外した頃からは明るくなって足元の不安が解消されてきたのでペースがマシになってきました。そうこうしていたら、今度は左脛の弁慶の泣き所を岩に思い切りぶつけて超痛〜い。全く嫌になります。(現在この記録を書いている10月下旬現在も跡がしっかり残るほどの傷で参りました。苦笑) たぶん飛ばすガイドならば強制的に引っ張られるのでもう少しは速く歩くこともできたかもしれませんが、なんだかジョージはおっとりした性格のせいか、あるいはMINMIN亀は引っ張っても亀であるということがわかっているせいなのか(笑)、本当に不思議なほど私のペースで登らせてもらえました。この時は<どうせソルベイまでのお客さんだから彼女の登りたいように楽しませてあげよう>みたいに思っているせいなのかなと半分ぐらい勝手に思っておりました。 それにしても、ダントツのビリなので全く待たされること無く(これはかなりマッターホルンでは稀有な話です。)いつの間にかソルベイヒュッテ直下のモズレイスラブ(3級−)へ到着。ようやく小屋の端っこが初めて真近に見えて、すごく感激。ここで近くにあったセルフビレイ用のしっかりした支点にザイルを張って、それからジョージが登るのを待ちました。(たしか、ここまではきちんとした支点もなく、ほぼコンテできました。) 初めて、<そうだ、デジカメを撮ろう>と思って胸ポケットから写真を撮りました。彼が上の小屋の方から確保が出来たとコールがあったので登ります。スラブは自分は好きなのでちょっとツルツルしている感じもあるけど難なく登って行き、あと1、2歩という所で、なんと日本人のDさん(マッターホルンはマンツーマンガイドが基本なので、白野さんがCさんとペアで、ガイドできないもう1人をツェルマットのガイドさんに託していたのです。)に遭遇。 「2時間半だったんだけど、降ろされるんだ。上はとっても景色が良いから。じゃあ・・・・・」と言ってすれ違うように寂しく下って行きました。ちょうどもう一組のガイドパーティーも降りて行きます。最後のスラブを登り切る直前だったと思うので、ゆっくりとお話することも適わなかったけど、現地ガイド登山のとても厳しい現実を突きつけられた瞬間でした。(だって2時間半は合格タイムじゃないの?!?) 自分はやっとの思いでソルベイ小屋の一角ににたどり着いたところ、ジョージが「ソルベイヒュッテの中を見てみるかい?」って言うのでちょっと中を見ると、3,4名の男達がどうやら下山の準備をしているようでした。思ったよりも広いし、毛布もあるし、それにソーラーシステムがあるのでたぶん夜のライトもあるのではと思います。その後、ちょっとへたり込む感じで休憩。ソルベイ小屋の周りには確保用のポールが数本あり、小屋の下は断崖絶壁です。ここは正直トイレ臭い感じがします。(風向きによるので下山時に寄ったときは感じなかったです。たぶん、今年はかなりクローズしていたので、大分マシなのでは?)ザイルの処理をするので少し彼も休憩モードです。時間は覚えていないのですが、あとでデジカメの資料から7時15分頃の到着でしたから、ヘルンリ小屋からはちょうど2時間58分位。ほとんど3時間でした。(トホホ・・・・) 最初はちょっと疲れていたけど、息が整うとそんなにまだ長時間行動している訳ではないのですぐに元気になりました。心の中で<ここから降りるって言われるのかな?>って彼の様子を密かに伺っているんだけど、彼が隣に座ると、「水はちゃんと飲むように、何か食べ物を食べなさい」と言いながら、リュフェルホルンの時のようにまたチョコレートをくれるのだった。写真を撮ってもらったり、なんか降りるムードとは違うんだよね。恐る恐る「あの、あとどれ位ですか?」って聞いたら「Maybe about 2 hours」とニコニコしながら答えるではないですか!! てっきり、残念だけどここから降りますよと言われるのかと思って尋ねたのだけど、自分のマッターホルンへの挑戦はソルベイヒュッテまででなく、まだもう少し続けられることがわかり、自分自身の幸運に乾杯♪♪♪ |
左の茶色いのがソルベイヒュッテの一部 下にある確保支点は通称「豚のしっぽ」 |
朝陽に輝くモンテローザ山群など |
ソルベイヒュッテにて 右下は断崖絶壁 |
★★ マッターホルン山頂まで ★★ 10分弱の休憩で再び登り始める。モズレイスラブの上段は3級−。スタカットで登るので、ジョージが登る間は下で待機している時間ができるのでちょっと呼吸はラク。でも、一気に登るので上に着くとしばらくぜーゼー。このあたりまで来ると上の固定ロープ付近に本当に多くの人達が張り付いているのが良く見える(大分下からも見えていたけど)。本当に岩場の戦争って感じなんだろうけど、自分は全く誰にも邪魔されることなく登れるのでとってもラッキーだった。 次の目標は通称肩と呼ばれるあたりの稜線に出ることだが、そこまでは近いかと思ったらそうでもなくて、2回ぐらい固定ロープがあったような記憶がある。ザイルで確保されながらスタカットで登るような感じの所が多く、そのたびにゼーゼーしながら登っていたら、あっという間に時間が経ってしまった。肩に到着する手前で早くも下山パーティーが2組がほとんど両者で競争するみたいに駆け下りていった。彼らはアイゼンを履いているので、蹴飛ばされないように気をつけた。しかしその後はあまり下山の人達とすれ違わず、微妙に彼らもルートを変えて降りてきているのか、あまりぶつかりそうという場面は覚えていない。 北壁を望む稜線まで上がると風があって心地よい。大体ここまでソルベイヒュッテから約1時間もかかってしまった。(^^;)厳密に言うと肩のやや下あたりの位置だと思うが、平と呼べるような所は本当に無いに近い。それでも他に人がいないので、一等地でアイゼンを付けることができた。向こうは北壁で高度感に負けそうなので、恐い方は見ないようにする。自分は高所恐怖症では無いと思っていたけど、2000m以上落ちている半端じゃないレベルの高度感とヨーロッパの圧倒的な岩と雪と氷河の織り成す景色には日本の山で感じるものとは違うものを感じてしまう。ここは後で茂木さんにお聞きしたところ、定番のアイゼンの装着場所らしい。混雑していたらとザックを置く場所もまともにはなさそうだ。アイゼンを速攻で着けてジョージを見ると、<あれ?彼ってワンタッチアイゼンなんだ・・・・> 外国のガイド達は絶対にワンタッチは駄目という人が多いので、かなり意外でした。やはりこのあたりもジョージがスイスのガイドでないせいかもしれません。 いよいよ最大の難関と思われる固定ロープの所に進んでいきます。今度こそそう遠くない感じで到着です。アイゼンで岩と雪のミックスを歩くので足元注意です。このあたりは雪田とか呼ばれているはずだけど、そんなに広いたんぼみたいなところはなく、ごつごつしたやや斜度が緩んだ程度の所だったような気がします。固定ロープの所に近づくといよいよ♪ 緊張が高まります。 事前の情報では固定ロープは大体8本位(正確にはよくわかりませんが、6本以上はあると思うし、短いのを数えるかどうかで数が違うのかもしれません。)標高差で約100m位ということです。既に登ったことのある人からの直接の情報やインナーネットなどでの情報から @ガイドは両腕でロープをつかんでどんどん登れと言うので最初の取り付きの2本位がシビア。ホールドを探したり、スタンスを探す時間は与えてくれない。 A後半の方がスタンスやホールドがあるので登りやすい B手を使って登り過ぎると最後に腕がパンプして登れなくなるので、そのあたりを注意するべし。 C雪だとかえって固定ロープは登りやすいかもしれない(茂木さん談) 特に自分は腕力&握力ともに無い方で、左腕をそもそも若干痛めているので最大の懸案だ。女性の中ではここで力尽きて登れない人もいるという。 ところで、神様はここでも自分に味方をしてくれたようで、なんと固定ロープの脇には、しっかりとしたアイゼンのトレースが刻まれているではありませんか!!固定ロープも思っていたよりは普通に握れる太さなのでほっとしました。運動会の綱引きの時の綱ぐらいの太さですが、素手で握ったせいか(無謀ですが、手袋をしているよりは握りやすいし、幸い冷たくもなかったので。ここは気象状況によってはロープが凍てついているそうです)想像よりも随分ラクでした。雪のトレースは凍結していることもなく、アイゼンが良く効くほどよい堅さで歩きやすいので、超快適♪ 固定ロープの右側にトレースがついているので、左腕でロープを握りながら登りましたが、ほとんど登攀というよりも単純な急斜度の雪道歩行みたいなもんでした。コンテで進む感じだったと思います。最初のロープの2本か3本ぐらいはそんな感じでした。上からは時折懸垂で人が降りてきてますが、そんなに気にならない程度でした。 大分上まで上がってヤレヤレと思っていると、白野さんとCさんが降りて来ました。無事に登頂した様子で、真っ先に「Dさんは?」「2時間30分でソルベイで降ろされました」・・・・・その時の白野ガイドの無念そうな顔。<全く・・・・>というような舌打ちするような表情を見てしまいました。「私は3時間もかかって登ったのに・・・。(Cさんに)ソルベイまでどれ位で登られたのですか?」と尋ねると、「2時間10分です」というので、唖然です。。。。またまた60代パワーに圧倒されました。 白野さん達とすれ違った辺りはロープで下から4番目ぐらい前後でしょうか?このあたりからスタカットで登っていきます。たぶん白野さんパーティーと会ったのも待っている時だと思います。自分的にはこれでなんだか山頂まで行けそうかな?って思っておりました。 ところが、やっぱり甘くはありませんでした。次のロープの場所だと思うのですが、まるで垂直です。確かここで1名待機の人がおりましたが、たぶん下降の人だったような?ジョージは軽々と登っていったのですが、ここはロープがなければ4級という位置づけのようです。左側にレリーフがあったようなちょっとしたテラスみたいになっていました。 ここだけは、左側に鉄製のアブミ(階段みたいな形のもの)があるので、右手に固定ロープ、左にアブミをつかんで登ればよいのですが・・・・・。あぶみを掴むのは自分の弱点の左腕です。なんとかアブミはぎりぎり手につかめたというか、触れたような?記憶があるのですが、高い位置にあるのでとても力を入れて握れる位置ではありません。恐らくあと10センチ以上背が高い人ならばもう少し力をこめて握れるのでそんなに問題はないのかもしれません。しかし自分の身長(156センチ)ではアブミに触れるのがやっという感じです。おまけにスタンスがありません。アイゼンの歯を乗せるほどのスタンスは無かったです。かすかに右足の膝位の位置に微妙なスタンスと言えなくもないのがあるのですが・・・・、それにアイゼンの前爪で踏み込んでもとても立てるレベルではありません。 上からはジョージが準備万端に待ってます。最初の1、2回は漠然とトライしたのですが全く歯が立ちません。これは上から引っ張って貰わなければとてもクリアできません。だけど、上のビレイポイントは結構遠いので上から引き上げるのも大変です。「いち、にの、さん・・・」って言う掛け声で3度目はトライしたのですが、<そうだ、「One、 Two Three」と言わなければ伝わらないジャン・・・・・!!!(苦笑)> それで、今度はもう一回「One、 Two Three」と大きな声で勢いを付けて登ろうとしました。ジョージもそれに合わせて一生懸命引っ張ってくれましたが、しかし駄目でした。大ピンチ〜〜〜・・・・・・・・・・ しばし休憩。息を整えてよくよくあたりを観察。とても自分の腕力だけではかなり無理そう。でも、<そうかアブミをうまくもっと使えないかな・・・・・ いい方法が浮かんだ!!> たぶん5回目ぐらいのチャレンジでしたが、もう一回大きな掛け声で「One、 Two 、Three !」とジョージとタイミングを合わせながら右腕でロープをつかんで、右足のアイゼンはの先端を微妙な岩のスタンスに蹴りこみながら上体を少しでも岩の上に上げようとして、左手でアブミをつかんだ状態から左の肘に挟むような感じでアブミを巻き込んで左肘でアブミと上半身を確保!! 肘の位置まで体が上がったので、あとは上から引っ張られているお陰もあってなんとかようやくその難所をクリア。ぼてぼての何でもアリの登り方でした。(あ〜疲れた・・・) やっとジョージの所まで上がると、さらに固定ロープが続いていた。でも、そんなにキツソウなのは無さそうでほっとした。再びしばし休憩していると、ジョージから登っていいの上からの合図。息がハアハアしているけど、なんか急にお腹が空いてきた。さらにもう1ピッチ先はいよいよ北壁側に行くよう?ジョージの所まで上がると、貧血でも起こしそうな気分で、「I’m so hungry,just wait.」と言って、彼からいいよと言ってもらえたので、速攻で小さな一口御餅を2つほどパクパク。なんとかこれで上まで持ちそう。その間たぶん2分間ぐらい。 ここから上は、何度かジグザグを切るような感じの一面綺麗な雪の斜面で、きっちりとトレースがついていた。大体足の脛半分ぐらいの高さぐらいまで雪がある。北壁側というけど、登っている分には斜度はそんなに気にならない。それよりも、ますます足は重たいし、完全に息が上がってしまって辛い辛い。どうやら左側の上の方に像のような物が見えているような見えていないような。あんまり上だったら悲しいので見ないようにしていたけど、大分下の位置から見えていたみたい。ここまで来ると、登頂が確実なのでゆっくりと噛み締めるような登り方だ。 ちょうどこの山頂直下の雪の斜面を登っている時に、何やら飛行機の音がすごい。何処だろう?と思っていると、「見ろ見ろ! スイスアーミーだ!」と彼の指差す方を見ると、遥かに下の位置に5、6機だろうか?飛行隊が隊列を組んですごい高速で素敵な三角の形に飛んでいた。それはそれは見事な様子で、まるで自分達の登頂を祝福しているかのようにも思えるのだった★★★ かなり何度も飛行隊は近くを通過、上空を飛ぶこともあって、とにかく隊列が見事。曲芸飛行隊みたいな感じもした。思わず二人で立ち止まって、しばらく素晴らしい景色に見とれていた。さらには、ヘリコプターまで登場して、2、3機が上空を旋回していた。なんか本当に今日は飛行日和だなあ〜!!! そんな訳で、いつの間にかとっても時間が経つのが早いもので、えらく時間が経ってしまった。(苦笑)とうとう、お地蔵さんって感じの黒い像の所までたどり着いた。でも、まだこの上があるのだった・・・・。かなりぼーっとした気分で本当に自分がマッターホルンの山頂に向かっている幸せが信じられないぐらいの気分だったが、そうこうしているちに稜線みたいな山頂に到着。10時31分だった。 \(^〇^)/ \(^〇^)/ \(^〇^)/ 自分は山頂に着いたら感極まって泣くのかなあ?と思っていたら、あまりのあっけらかんとした太陽がまばゆい素晴らしく陽気な山頂の様子に、気分もハイテンション!!! 思わず写真には万歳して映ったのでした。 とっても幸せな気分で、この空間に居れるだけで嬉しかった。しみじみ〜〜〜 山頂には誰も他にはおらず、二人きりだった。細長い稜線が頂上なので、気をつけて滑落しないようにする。雪がふかふかとあって、白くて綺麗だ。 北壁側は恐いのでほとんど見ないようにしていたし、東壁側は雪庇になっている。遠くの山々だけをぼっ〜とながめた。「モンブランが見えているよ」と言われた。確かに見えている。 全てはあの山の感激から海外登山に目覚めたので、感慨深い。周りの山々は美しく、また他の白き山々にも登りたいと思うのだった。一通り写真を撮って、向こうのイタリア側の山頂の十字架の撮影も望遠で撮ったが、余力があれば行くんだろうけど、さすがに6時間14分もかかって登ったので、頼むのも申し訳なく、スイス側の山頂で満足だった。(イタリア側の十字架のある方の山頂は僅かに低い。) 山頂に10分強ぐらいは居ただろうか?少し休みたいので、ほんの少し下のお地蔵さんの所まで降りることにする。ここはやや休憩にふさわしい感じの場所だった。お地蔵さんと書くけど、実際はキリスト教の聖像である。(笑)でもお地蔵さんにそっくりな感じ。その真横あたりに座って、のんびり行動食などを食べる。下からガイドレスの2名の男性が登ってきた。ザックはデポしてピッケルだけ持っていた。今日は雷雨が来るかもの天気予報が全く外れて、とてもその兆候も見れないほどの安定した穏やかな晴天だった。さすがに20分近く山頂付近にいるので降りなくていいのか?とジョージに聞いたら「11時まで居ましょう。あの2人組が降りてきたら2人の写真を撮ってもらおう。」と言うのでした!! なんか、本当にジョージは嬉しい人だ♪ ヨーロッパのガイド登山で30分も山頂に居させてもらった話など、ほとんど聞いたことなかった。まさかガイドさんからそういう言葉が出てくるとは・・・・。 ほどなく2人の男性パーティーは山頂をピストンしただけ位の時間で戻ってきたので、ジョージが話しかける。向こうもいいよということで、私と、ジョージと向こうの人のカメラをお互いに撮り合うことにした。差し出したカメラがニコン、オリンパス、ミノルタといずれも日本製なので、私が思わず「オールジャパニーズカメラ!」と言ってしまった。やっぱり、カメラは日本製品が世界市場を掌握していることを実感。二人で登った写真は嬉しいなあ。 ★写真のあとで後編に続きます。これから先が、実はマッターホルンの本当の凄さ、大きさを感じることになる核心の体験とも言えるものでした・・・・・・。 |
Mt.Mattarhorn
(スイス側山頂)
イタリア側山頂
望遠にて撮影
左がモンブラン、
右がコパン・ブラン
ガイドのGeorge Feitzinger 秀峰ヴァイスホルン(4505m) ここを登ってきました。すごい高度感で景色が広がってます お地蔵さんにそっくり
山頂直下にて