【プロローグ】

 
 私が勤めている会社には勤続5年ごとに一定の長期休暇がもらえる仕組みがある。今年度は連続2週間の休みが取れるありがたい年だ。10年前には当時の上司が山に理解があり、毎年取得できる5日間の連続休暇も一緒にまとめて取ることを許されて、連続3週間の休暇を取ることができた。ちょうどその1年前にモンブランに登って海外登山に目覚めた私は、次は是非ネパールの6000m峰に登りたかったトレッキングピークと呼ばれるアイランドピーク(6189m)が目標だった。


 当時は家族がそんな高い山に登るのは大反対で、大変な家族騒動となった。大反対を押し切ってツアーに参加する方向で話は進みかけたが、その年はネパールトレッキングが大人気で、飛行機のチケットが予定通り取れない。ツアー会社に私だけ短縮日程を組んでもらうと21日間程度に収まるのだが、その飛行機チケットが取れる見込みがないと26日間から28日間位行程になってしまう。さすがにそこまでの休暇は取れない。ものすごく泣く泣く断念した。それで、第二希望のネパールトレッキングのカラパタール(5545m)に行ったのでした。(その経緯については、こちらに詳細) 


 ネパールのトレッキングで
初めて肉眼でエベレストを見た感動はやっぱり素晴らしかったそれに実質14日間に及ぶトレッッキングでのテント生活や高所での体験というのも貴重な体験だった。学生時代には最高で1週間は山中でテント生活をしたことがあったけど、さすがに2週間となると心配だった。実際はツアーはかなり快適だった。高所はそれなりにしんどいが、皆が高山病の症状に大なり小なりなるので、それをいかに最小限に抑えるかということも理解できた。


 それで、ようやく10年間待って連続2週間の休暇が取れる今年こそ念願の6000m峰に登りたかった。6000m峰に登るには最低でも3週間程度の休暇が必要である。7月に私は職場を異動した。慣れない職場でいきなりそれを言うのは覚悟が必要だったが、大変理解のある上司で10月中旬か11月頃に3週間の休暇は了解をもらえた♪♪♪   


 さて、今回登ろうとしていたのはメラピークという6473mのピークだ。前回目指したアイランドピークではカラパタールの時のトレッキングとほとんど同じコースなので被ってしまう。同じルクラ飛行場からの出発になるが、谷が一つ違う静かなマイナーなトレッキングを楽しもうと思ったのでメラピークを選択した。メラピークはネパールのトレッキングパーミッション
(簡易な手続きて登山許可を取ることができる山。)で登る山としてはほぼ最高峰で、その割に難易度が低く、雪上歩行で概ね単に歩くだけ。山頂付近からスキー滑走が可能で最近はその点から脚光を浴びている山なのだ。さすがに自分では滑るのは躊躇しそうだが、滑ってみれたらいいな・・・・とは思った。アイランドピークからはエベレストは地形的に見えないが、メラピークからは天気に恵まれればエベレストが見えるというのも楽しみだ。


 メラピークだと自分の冬山装備で十分登れる。自分は現在は山岳会などに所属していないので、こんなに長い期間を一緒に行ってくれる相棒を見つけることは最初から諦めている。武器になる英語もできないし、やっぱりツアー会社頼みにならざるを得ない。ツアーの費用が約60万円台。8月頃に会社に問い合わせたら人数が集まりそうだという。催行には6名が必要だが、私が申し込んだ時点で既に4名。9月になってあと1,2名プラスになる・・・という話まであった。それが急にキャンセルが続出。ツアー会社としてはギリギリまで参加者を募っていたが、出発日が1か月を切って行くとか行かない・・・・・では、会社員としては大いに困る!!!! 毎日のように直属の上司から「行くんですか、行かないんですか・・・・・・!!仕事の不在時のフォローを組まないといけませんから早く決めてください」のやんやの督促。出発日まであと3週間となった時点でとうとう参加者は3名となってしまった。ツアー会社では6000m峰でもあり、参加メンバーのメンツから日本からのガイドは必須と判断。最終的な結論は「あと約7万円位を追加料金を払えば催行する。」という内容だった。


 私はあまりにも結論が出なかったので、ずっと悩んでいた。この手のツアー会社主催の高所登山では毎年必ず実施されるのはアコンカグア峰(6962m)だ。7大陸最高峰の一つで、南米大陸最高峰の山だ。私はそこまで高い山だと高山病のリスクがかなり高くなるので登頂はかなり難しいと思った。それに南米まで行く遠さを考えると億劫だった。それよりも確実に登れる確率が高い山に登りたかった。メラピークはトレッキングに最後のプラス2日間だけが雪山登山という感じだが、アコンカグアだとそうはいかない。高所順応と称して、登ったり下りたりの順応トレーニングを必要とする。
それに雪山大好きな自分としては、アコンカグアは高い山にもかかわらず、雪が全くない年もあるらしい。ゴロゴロの登山道だけを歩くのはちょっと勘弁かなあ・・・・というのが正直あまり気が進まなかった最大の点でもある。それに、金銭的にもツアー代金だけで約90万円位かかる。さらに7000m近い高所なので、防寒対策の装備もさらに一段レベルを上げる必要がある。そのための費用もかかるとなると、100万円以上は確実にかかる・・・・・。


 日本からのアコンカグアのツアーをやっている旅行会社は2社のみ。(ほかに探せば、ガイドさん主催とかのはあるかもしれないです。参加したツアー会社の方が言うも現在は2社のみとのこと。)私がメラピークに申し込んだAT社と今回参加したアドベンチャーガイズ社(以下AG社とする)の2社のみ。AT社のツアーは年末の早い時期から出発するので参加不可能。AG社は年末出発と1月13日(木)出発の2本あり。2本とも催行されることもあれば、どちらか一方のみの年もあるという。概ね年始の方が催行確率が高いという。催行されないと、またしても6000m峰は夢に終わってしまうかもしれないけど、その時は山は諦めてヨーロッパにスキーにでも行って憂さ晴らしをしよう?・・・・ということで自分なりの結論としました。


 私の仕事の性質上、年末に休むことはできない。ただ、お正月明けに少し出社すれば、1月中旬位からならば休暇は可能だということで、上司に内諾を得た。正式にメラピークに断りを入れて、アコンカグアのツアー催行に賭けてみることにした。幸いに人気のアコンカグアは客足早く、すでに私が問い合わせた9月頃の時点でも確実にほぼ催行されるという。これで、やっと安心?! 女性も私の他に参加希望の方が2名ぐらいいるみたいで嬉しいなあ♪


 ということで、大変長い前置きですが、勤め人のうちに長期山行に行くのがいかに大変か・・・・・、そういう葛藤を経てのアコンカグアへの参加でした。最近はやっと会社も<ワークライフバランス>」という言葉で休暇取得について理解が進んできましたが、まだまだ、実際に実行に移すのは本当に大変。今回はツアーが催行されて、出発の日を迎えることができて大変うれしかったです。


 
本当に苦節10年?!
 10年待って6000m峰への挑戦がやっと始まりました